シューティングスポーツクラブ(SSC)狩猟家連絡部会

銃器の個人間譲渡について

昨今、銃砲店の経由に拠らない個人間の銃器の譲渡が多くなっております。一寸多くなってる、のではなく、極めて目立って増えています。射撃協会や猟友会は、関心出来ないこととして常々公示しておりますが、サプライヤーとして重要な銃砲店擁護の意味も含まれることは確かです。しかし、あながちそればかりとも言い切れません。
銃器は、込められた弾丸を発射するだけという非常に単純な機能のものであると同時に工業品・工芸品でもあります。大きな力を発揮させるものであることから、部品の点数は少なくなるよう作られ、各々に丈夫ではありますが、保守管理を怠っていたもの(持主は充分手を掛けた積もりでも)が、不具合を背負ったまま譲られることも少なくないようなのです。企図せず、或いは意図して、何らか不具合があるものを、有償無償を問わず、鑑定者でもある銃砲店の査定・修理・調整を受けず譲渡されることが、全くないとは言い切れません。

当方に報告されている事例では、名品と言われるものを幸運にも安価で譲り受けたが、解禁直後に排莢装置が破損、手製のもの故部品がなく、本国送還修理となると高額で、どうしたらいいか、とか、やはり著名銘柄の高級銃を貰ったが、ガタがあり、お店が修理を拒んでいる、とか、ライフル銃を譲ってもらったが引き金構造の何処かが壊れているようで、閉鎖すると暴発することがある、とか、空気銃を貰ったが、圧縮途中に暴発することがあり、旧い銃で修理先が見つからない、とか、美品というので譲り受けたが、銃台を外したら隠れていた部分は錆だらけだった、とか、酷いのは引き金が落ちないから撃発しない、など、まあそういうからにはこれは一部なんですが、実に枚挙に暇がない程、問題を抱えたまま譲られていることが分かるものです。

それらが全て、銃砲店経由では売れないだろう、と、自ずから企図して、それを隠蔽し換金する為に行われたとしたら、愛銃家、そしてスポーツマンとして、実に悲しいことです。勿論、それらは「決して企図されておらず、たまたま譲渡を期してそうなった」と信じたいものです。でも、本当にそう言い切れる程レアケースではなく、余りにも頻繁にそうした状況を知らされます。沢山の譲渡に埋まっている幾つかだろう、という問いには、否、と申し上げておきます。実に高密度にそうした事例が発生しています。まあ、数にしたら、実際私どもが聞いた或いは仲立ちした譲渡の事実が10あるとしたら、8については、何か起きています。凄い比率です。

銃器修理の現状を申し上げますと、現在、所持許可厳格化を享けて、市場では持つ人より放す人の方が多い可能性もあるため、嘗てのように、高級品を高級なる状態で販売する為に高額を掛けて点検修理する、ということは、先ず無くなっています。手製であることが殆どの高級銃は、その部品部材各々がその個体の為に作られており、部品が破損した場合等はコトと次第によっては製作した本人でなければ再生出来ないものです。

先の例では、高級上下二連銃(希少品なので詳しくは避けますが垂涎のロンドンガンです)のイジェクターという部品が、排莢動作時に反動で切れて薬莢とともに跳んだというもので、良品故にその部品が鋳物ではなく鋼の固まりから削り出されている以上、曲がる暇なく折れるのは時間の問題であり、先の持主の所為ではないのですが、正しい検定では、探傷といって、写真造影・エックス線という非破壊の検査を行い、切損の原因となる亀裂を見つけ、事前に溶接や骨入れという補強を行って防ぐものです。本来数百万円の再販価値を持つと鑑定されるようなものは、諸外国ではその価値に相応しい価値を守るよう必ず検査され、見合う補修をされ、流通するものであるところ、個人間譲渡では、それらが全くない為、いわば「腐ってもロールスロイス」という状況に陥ってしまった、と考えざるを得ないでしょう。その修理は日本の現在の工房環境で受けられるものではなく、製造元の工房に頼るしかないのですが、輸出入の手続も合わせ見積を取ると二百万円近く掛かる結果となることが確認出来ましたので、私どもはその方に、折れ跳んだ部品を捜し出し、残っている部分と合わせて薬室底と抽筒子のアリミゾにエポキシで接着し固定、その状態で銃砲店に、折れた部分と残った部分に掛けて細い溝を掘って、その溝にあう鋼の棒を作ってハンダ付けし、その後薬室の中から暖めてボンドを剥がして洗い、先台の中のイジェクターの打撃バネを取り除きエキストラクタとして使用するようにして貰うことを勧めました。その方は御自分が発射した場所に多量の磁石を持ち込んでまる一日這いずり回って漸く抽筒子の先のリムを掛ける部分を見つけ出し、提示した修理を何と御自分で行ったそうです。イジェクターがあれば、外国でならまだ数百万の価値がある、元々数千万円の銃も、押し出しだけの改造品となると価値は半減してしまいます。幸いその方は人生経験が豊富な方で、「いいものだから夢がある。夢があるからこんなことをしてでも使い倒したいという気持になった」と仰って下さいました。自分で直したのもお金が惜しいからではなく、結局銃砲店にその方法では直せないと言われたからダメモトでトライしたということ、イジェクターの機構は先台の中にあることや意外に簡単に除去出来ることも知り、そもそも都度薬莢を飛ばされて、手詰用に後で探すのに閉口していたからとお手持ちの猟銃全部からそれを取り去ってしまわれたことも伺いました。

見るからに安普請なものといっては失礼ですが、普及性の高いものは案外部品等は作り易い、或いは単一に機械加工したものが使い易いように作られており、案外旧くても部品として入手出来、摺り合わせ等机上の手作業のみで復旧させられ費用も掛かりません。が、旧来の海外の高級銘柄品はそうはいかないものです。通常、先のようなことが起きますと、日本の場合現況では諦めて廃棄するか都度何かで薬莢を摘み出し使うしかないでしょう。私どもが勧めた修理を銃砲店が断るのは当たり前で、もしそれの再販を頼まれた時、そのことを述べて次の使い手を捜し出す自信がないからです。お金を出す人は、善くも悪くも完璧を望んでいるのですから、結果として不調品を商う可能性から遠退くべきなのです。その銃は本来前の主が銃砲店で転売を断られたからと打診を受けたとの話、かつ、「大変良く使われていて駆除も合わせて通年四六時中撃っていた」ということで、流石はプロだと感心してしまいます。ヒトカセギ出来そうな絶品を、ショッチュウ使われていて健康と知り乍ら、わざと扱わないということは、予感とか気配とかいうプロとしての経験から来る何かの囁きを聞けるのでしょう。恐らくそれは神職が得る啓示のようなものです。問題が起き難く、適価で修理出来る、いわば昔の普及品が、今でもお薦め商品のように中古銃の棚に並べられるのは恐らくその為で、好事家が魅せられることが無くなっている訳です。

いつものように、長いお話になりましたが、そういうことなのです。

プロの手を経ない或いは通せないものには、何らか理由があるのです。協会などがいう理由は眠り銃の誘致の可能性ですが、個人間譲渡がその元凶となるとは少し解せませんけれど、それも読み方を替えると、調子が悪くて眠っていたものが次の人に渡りまた眠る、と読めなくないので、そうとしたら、成程です。

よく、調子良く走っていたクルマを譲ってもらったら、たちまち故障したなんて話を聞きませんか。それを安物買いの銭失いだと笑いませんか。あなたが、銃砲店で売っていたら五十万も言われそうなものが十万円で買えたと、もし喜ぶのなら、次の瞬間、そうして笑われる可能性があります。あなたがもし、先の方のように実力でその嘲笑を打破し、一統上に伸し上がれる自信があるなら、流通に蹴飛ばされるモノを手にする資格があると言えるでしょう。またそうした人なら、故障があっても割安で買ったからと諦めてちゃんと修理の課金に応えるか、先の方のように叡智を注入し努力するでしょう。

個人間譲渡を依頼されるからには、相応の理由があると考えるべきです。もし先の超高級な猟銃が、その筋のモノを好むお店の目に止まり、十万円で買取られたら、お店はそれに二百万円を掛け、三百万円で売るでしょう。でもたまたまそういうお店が前の主の知己になく、かつ、相談したお店は多分「そんな時代じゃないから」そのお店でも買わないと判断され、宙に浮いて、でも捨てるには惜しいので、精力家と見られた先の方に紹介されたのだと思うべきなのでしょう。その方なら、何があっても捨てずに楽しんでくれはしまいかと、その銃可愛さ故に矢を立てたのだと、思うべきなのでしょう。

個人間譲渡で手放すお気持ちをお持ちの方には、当該品が現時点で必ず安全かつ完全であるよう努めて頂くことを望みます。もし長くお使いになっていないなら、「何年間使っていない」と正直に知らせて差し上げましょう。さらに、その流れでお受けになる方には、「何があってもきっと使いこなす」決意を以て望んで頂きたいものです。

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