調弦にあたって

専ら知られる調弦の注意事項ですが、特に初心者の方、少なくともこれを覚えて下さい。

先ず、弦のセットが全く調弦されていない、輸送後か何かの状態の場合、以下を確認し乍ら調弦を進めましょう。練習しなければならないことも多いですが、毎度必ずやることなので、当初はこのおけいこばかりになることもありましょうがへこたれないで頑張って下さい。

1. 低音弦から順に(バイオリンならGDAE, ビオラならCGDAと、4・3・2・1番という順で)調弦する手順を誤らないこと。細い弦から合わせようとすると、オーバータイトになってしまって弦を損ないます。
ここで、あまり楽器の音を聞いたことがなく、楽器が出す音色を知らない人の多くは、意外に低く聞こえることなどから、1オクターブ勘違いしてどんどん巻き上げてしまいます。バイオリン・ビオラの場合、規準音A(La)は440Hz前後、A3といわれている、88鍵のピアノでいうなら最低から4オクターブ目のAですから、いうほどキンキンの高音ではありません。着手が遅い、余り音楽に縁がなかったという初心者の場合は、「音階番号を検出し表示するチューニングメーター(1万円前後以上のもの)」を使用して「表示される音と音階番号の表示に従う」ことから始めて下さい。
2. 各々の弦が音をたてられる位迄巻き上げた後は、一音づつ程度を、前記の手順で順次上げていきます。決して1本だけ派手に巻き上げて無理に追い上げようとしないこと。ブリッジが倒れて楽器を損なう虞れがあり、1本の弦に張力が集中していきなり切ってしまったりします。
最終的に2・3、3・4、2・1各々の組合せで弦を同時に弾いて共鳴で合わせますが、ピアノ等調律を動かせない楽器がある合奏の場合は各弦をその楽器の出すその音に合わせ直す必要が出ます。
3. 楽器の表面に対してブリッジが常に直立であり、横方向にずれていないことを都度確認し、ずれたり傾いたりしたら直ぐ修正して下さい。ブリッジは弦の張力で楽器に押し付けられているだけであり、一切固定されていませんので、弦が張られると連れられて動くもので、調弦が完了に近付くに従い強く押し付けられて容易に動かせなくなるばかりか、修正しようと動かそうにも意図する方向と逆に撥ね付けられて倒したり、ブリッジを割ることもあります。
専門の楽器店で求める場合、初心者のようであればブリッジの適正位置や角度を示してくれたり、またブリッジの足位置をマークしてくれたり、通信販売でもセットアップして納めてくれたりするものですが、量販系販売店や通信販売なら、予め頼んでもそれが出来ないことが殆どです。ブリッジが立てられていない状態で納入されたりした場合、近隣のバイオリン講師か専門の店で、一度規準状態を組んで見せて貰うことを強くお薦めします。
4. 糸巻きは糸倉の側壁の孔との摩擦で回転を止めています。機械的制御はありません。スリップして急激に戻らないよう、確り保持し、常に糸倉へ向けて圧力を掛け乍ら回せるよう練習しましょう。糸巻きを巻く方向は、楽器の正面から見て上方向に回すと張りを強めることになります。
糸巻きがスリップし易く、弦の張力で連れ戻されてしまうような場合は、糸巻きを抜いて、糸倉の孔と擦れ合う部分にチョークをひと回し擦って戻すと確り感が増します。逆に固すぎて回し難い場合は、チョークの代わりに石鹸を擦り付けるとスムースになります。共に付け過ぎないように注意して、必ず1本づつ試して下さい。
5. アジャスター(ファインチューナ-とも言うテイルピースにつけて調弦を補助する金具)には過度に依存してはいけません。この金具は、演奏中微少に調弦がずれたことが認められた時、最低限の動作で直す為のものであり、1音程度上下させるというのが性能の限度です。
アジャスターの適正位置は、ネジが弦の張力を受け止め始める迄捩じ込んだ位置から一回転締めた位置です。何回転も締め込むと、締めしろの不足でアジャスターを壊したり、楽器にアジャスター下側が当たったりし、場合によっては楽器や弦に損傷を与えます。アジャスターを締めたり弛めたりして調弦を直した場合、次回の調弦はアジャスターの位置を先の適正に戻して改めてペグで近付け、調弦して下さい。
6. チューニングメーターを使用する場合、周囲の音や楽器の響きの特有の倍音の為に期せずしてその音と違う音を示すことがあることを覚えておいて下さい。例えばB(シの♭)を出していると時折Fを示すことがある等です。慌てて大きく糸巻きを回して弛めてしまったり、逆に強めて糸を切ってしまったりという事故に繋がります。初級段階でこれに明るくないときは、コンタクトマイクを楽器につけて音を拾うようにしましょう。
チューニングメーターは高価であればある程敏感で反応が早いものです。専ら独奏を楽しまれる場合特により高性能のものを常に手許で動作させておくのは決して悪影響ばかりではありません。エンジンがある乗物に、エンジンの回転計があるのは微妙なコントロールに役立つ情報が増えるのと同じことです。
7. 調弦はチューニングメーターやピッチパイプで合わせて完了とは言えません。合奏する場合は規準音を、容易に調律出来ない楽器から貰って改めて合わせ直しましょう。それら器具を用いての調弦は、合奏前に最も規準に近い状態に準備するだけと考えて下さい。
普通こうした調律援助器具は平均率音階で合わせられています。これで調弦すると共鳴で調弦した時のような響き感が得られなかったりします。音階それぞれの音程は必ずメーター等規準音通りであれば良いのではなく、音楽の伸びや沈みをその開きで表現される必要もあります。弦楽器の場合、開放弦を使えるかそうでないかは、奏でる音楽の中の折々のシーンで采配されますから、それが全てではないのですが、開放弦が適正でなければいろいろな問題が次々現れますので、毎回合奏対象の楽器同士で最も使い易い音程に直すことは演奏技術としてみると基本になります。