:射撃場事情:

射撃場というと、知らない人は近寄り難いという印象を持つ人が多いのですが、実は結構オープンです。
日本に於ては、銃が発射されている様子を見られるのは、それを意思して赴く場合射撃場を除いては考えられませんし、その意思が射撃への興味に繋がり、参入への可能性とも出来ることから、大抵の射撃場は見学を受け付けています。いきなり訪ねてもそこで射撃が行なわれていない(利用者が偶々居ない)こともありますので、無駄を排除する意味が大きいのですが、礼儀からも不躾にならないよう、事前に予定を聞き予約する等はしたほうがいいでしょう。
国体等大きな競技会の場合は観戦やその方法を公示しています。センターファイヤーピストル等特殊な種目の観戦には予め予約が必要。その他は概ね当日受付で観覧を申し出ることになります。

見学や観覧は、お客ではないということが大前提、設置状況によって準備が必要になります。
射撃場にはいろいろなタイプのものがありますが、大体クレー射撃を行なう散弾銃射撃場や覆道という建物で覆われたライフル射撃場に大別されます。

散弾銃射撃場はオープンエアですので、天候が悪いと身を隠す場所がありません。また保安の上からもそういう設計にはなっていません。荒天に備えて雨具・合羽を用意すべきです。特別な場合を除き観客席はありませんから、射手が立つ射台の背後で見せてもらうことになります。標的の放出に音声スイッチを使っているので、犬等を連れていくことは勿論、私語をしたりはしゃいだりするのは絶対禁物、静穏を保って見学しましょう。得点は標的の破砕で明瞭で、進行もスピーディでスポーティ。リズムに乗って観覧すると楽しめます。

ライフル射撃場は、試合を行なう体育協会の公認を受けているところは若干なり観客席があり、見学者はちゃんと座って様子を知ることが出来ます。但し、サッカー等と違い、射座でプレイヤーが許されている飲食や雑言、音響を発する行為は禁止事項です。他一般的なスポーツ観戦のマナーの範囲であれば注意されることはありません。ライフル射撃はそもそも競技時間が長く、3姿勢複合競技等もあり、それなりに腰を据えて居留まらねばひととおりの様子を知ることは無理なので、観戦するにもそれなりの知識や技量が必要であることは確かです。

何れの場合でも、大音響が発されるものですので耳栓は絶対に用意しましょう。射撃場によっては見学者用のプロテクタを用意しているところもありますので装着して下さい。クレー射撃は弾着は標的の破砕で明瞭ですが、ライフル射撃は標的面を肉眼で見ることは無理ですので、倍率の高い双眼鏡を用意するとより深く理解出来ます。

ライフル射撃場ではその地元の自治体や競技団体などの催しで、光線銃やエアソフト銃を用いる体験会が開かれることがあります。主に空気銃の射撃場で行なわれることが多いのですが、その殆どが公設なので、所管する役場で日程等を知ることが出来ます。参加には予約が必要で、その際に多少用意を説明されます。場所によっては応募者が多い為抽選することもあります。参加費は必要な場合と無料の場合があります。何れにせよ決して安価ではない器材を用いますので、有料には深い理解を、無料の場合は若干寄付を積もりして頂きたいものです。

射撃はストイックなスポーツで、対峙するのは自分自身です。そのため競技者はその練習についても大変厳しい姿勢で臨んでいます。ところが射撃場の利用者は千差万別です。狩猟の練習の為、或いは銃の調整の為、単なる暇つぶし、同好の仲間同士で遊興の為など、競技と無縁の人に取ってはアトラクションかエンターテイメント、百歩譲ってもレクリエーションです。競技者が多勢の場合自然に場の雰囲気は出来ますが、通常極少数なので、相当ざわめかしい中での練習を強いられるのが普通です。ただ、それを過度に否定するのも競技に臨む上で逆に負荷を齎します。余り環境の良い射撃場でばかり練習していると、人の出入り多く、多くの会話や雑音を背後にせねばならない試合の時に気が散ってしょうがない選手が育ってしまいます。それを危惧することから、射撃場によっては無理矢理にでもテレビやラジオを流し、談笑を勧め、時には観客席で宴を催すこともあります。雑音が気になる人や、時としてそういう気持になるかも知れないと思う人は、イヤプロテクタを用意しておいた方がいいでしょう。ただ、見学する立場になる人がそれをハナから会得してしまいますと、観覧者の禁忌規定に反する行いを誘発します。

こうして身近に思わせておいて何ですが、問題はその数の少なさです。
クレー射撃場に関していうと、如何せん設備がかなり必要で、標的放出機を少なく出来るアメリカン競技やスキート競技でも数千万円単位で資本を消費しますから、余程であっても高密度での設置・営業を望めるものではありません。装薬ライフル射撃場は、所持要件で利用者が急減するものでもあり、幾ら原っぱ当然でも構わないとはいえ、事業になる程の利用はなかなか望めません。これらの理由から、装薬銃を発射する射撃場に関しては贅沢を言えないのが実情です。
ところが1個2〜3円の弾丸を使う空気銃に関しても、これまた非常に数が少ないのです。私設のものはどんどん失われてしまい、今や公設に一方的に依存している状況ですが、持ち易くプレーに経費の掛からない空気銃の射撃は、人生において長く嗜める運動といえます。場所はといえば廃校の教室や仮設建築程度でも充分で、器材も殆ど使いません。広く市民層に供せる光線銃設備も、一寸高価ですが置き易いです。
ただ、この程度の施設を利用する為に片道百キロを移動させるのは幾ら好きだからといっても一寸ナンセンスです。大体エコでありません。ところがそういって作ってみたものの採算ばかり追いかけて一時間の利用料を千円単位にしてしまって充分な練習さえ出来ない(ライフル射撃は競技時間自体1時間以上)有様の施設も散在しています。
射撃は静穏な心身が結果に直結するスポーツです。使用する銃器は一部を除き法規制を受け、管理についても常に配慮するもので、その取扱全てが実行に関与していくものでもあり、単なる運動競技としてではなく、生涯に亘る鍛練探究を齎す行いですので、せめて空気銃射撃場程度は市町村に一つ程度は備え、気軽に使える料金で供していくように出来ないものかと思います。

射撃場といえば、次に要るのは標的ですね。海外旅行のアトラクションで空き缶等を標的にして射撃をしたという方も多かろうと思います。日本でもそれはまあ昔はやったなあという程度のものです。設備がそもそもその程度のものでしたから。
昨今の射撃場は事情が違うのです。上述のように、本格的に競技出来る設定に近付けるように腐心して造られている施設は、空き缶を置く地面等ありません。ライフル射撃場は標的台の中にあるもの、クレー射撃場は放出される標的と、各々決っています。地面は射撃面としての整備はされていないこと、また着弾は回収せねばならないことから、規定された弾体到達面から大きく外れた着弾をする可能性がある射撃は出来ませんので御留意を。
ライフル射撃場の場合、自動採点標的を使用していない場合は私製の何等かを標的に出来ますが、破裂等で周囲を汚損したり破壊したりするものは使えません。また、人間や動物の姿が描かれているものも道徳的理由から使用を拒まれます。
専ら日本のライフル射撃場で使用される標的は、「圏的」という円形の採点環をもつ紙標的です。射撃場の設備仕様により違いがあります。
標的交換機を持たない射撃場では、「文銭」的という、幾つかの圏的が印刷されたものを用います。三途の川の渡し賃ということで6個の銭を拓本したものを納棺するところから名称を得ています。写真は日本公式エアライフル10m8号、通称十二文銭の旧型です。左側の縦二個は、試射用の的です。右側に整然と並んだ十個が本射用の的です。これ1枚でシリーズを形成し、1圏的1発の試合なら1枚で1シリーズ、2発の試合なら2シリーズ分です。これは、各シリーズごとに「換的」というブレイクをおいて、射手一斉に交換しに出かけなければなりません。練習の時は号令がないから、居並ぶ皆の中で換的希望者が「立ち尽くして」いる様を呈する迄待つことになります。
それでは無駄が多くなるので、空気銃種目やSB、ピストル競技なら標的交換機を使う例が多くなっていきました。機械を使わない装薬銃の場合は換的壕というお堀の中を歩いて交換しにいきます。この場合標的の中の圏的を1個にすることが出来ます。一文銭、などといっています。AR公式7号標的と電動交換機の写真を載せます。これならいちいち交換の時間をとらなくても結構。ちなみにAR7号・8号とも、10点圏の直径が1mmあるので現在のルールでは使用せず、各々9号・10号(10点圏0.5mm)を指定されています。
標的交換機は意外に値が張る設備です。単体では、写真の標的台が上下調整出来る機種でも15万程度ですが、それを取り付ける台座やレールの製作にはその倍も掛かります。機械ものだけに故障もしますから、整備費や代替装置の目算も必要です。

多文銭標的は、無駄な時間の他にも狙い難さという致命的な欠点があります。圏的同士の間隔が狭いことで視覚的に圧迫される錯覚と、高さや位置が変わることから来る据銃姿勢の変化から、苦手な的が各人に出来てしまう為高得点に結びつかないのです。圏的を間違えて撃ってしまうこともあるし(ペナルティです)、初心者はそもそも黒円圏内に入り難いので12個の圏的を巡るうちに何処に撃ち込んだか分からなくなってしまう等、問題を挙げれば暇が無くなっていきます。それを射手の所為だというのは一方的な見解で、こうした負荷を放置してそのシステムに依存し続けることで全体の成績点が低迷すると、他の地域や国で一文銭だけを使って高得点を見せるところとの格差が生まれます。これは不味いですから、世界規準に合致させていく必要があるのです。よって今はどの種目も一枚の標的には圏的は一個ということに大体統一されて来ていますが、非公式の射撃場にはまだ多文銭を使用するところがあります。多文銭標的の単価は、大きさ故に当然一文銭より高いのですが、その分射撃場の設営原価や運営費用は安くなります。安く沢山撃ちたい時は、多文銭を使うことにはなっても使用料の安いところのほうがいいでしょう。試合前の集中練習は一文銭を使えるところでやればいいと思います。

同じことが現在では紙の標的を用いない方向でも現れております。着弾を電気的に計測して即時に発表する電子標的(エレクトリックターゲットシステムETSまたはエレクトリックスコアリングシステムESS)は、国際的な試合に於いて、10m ・ 25m・ 50m種目では必須と規定されるようになりました。
これを用いるには、先ず、最低、上図の紙の標的の中に射撃の全てを収容し得る射撃技術が必要です。これを編集している2015年現在、試合誘致や選手の技能向上を企図してETS導入を進める施設が目立ちますが、同時にその施設に於いては、新たに取り組む初級者の学習を過度に制限する虞れがあり、手放しでは喜べません。
上図のように狭隘な施設の場合、取捨は止むを得ないでしょうが、右のような広い射座の施設では、是非両方が使えるように設備願いたいところです。
ETSに対する照準は、平面的な紙の標的とは若干異なります。着弾点が三次元的になることで、より内側に深く照準を置いていく必要が得点の鍵となり、また、必ず黒点の中心が採点上のセンターではないという機体誤差があるので、照準器のセットを試射の際に必ず行なうようになります。ただこれらはビームライフルやデジタル射撃では元々常識ですので、これらから移行した人には特に違和感はないでしょう。

そうして環境の向上に努める射撃場ですが、運営上の困った問題は「空調費」でしょう。結局オープンエアとなる装薬銃射撃場は交換機や壕の設置と維持程度だといえこれもまた多額の資本を必要とします。要求量が多く室内を要求される空気銃射撃場の場合、一端の映画館並の容積をほんの数人の為に空調しなければならないことになります。空気銃種目も多文銭標的を使っていた時代は屋外で構いませんでしたからホッタラカシで良かったのです。時代は進み、APも五百人定員からさらに増員を目指す時代となり、都市部の混み入った場所ではそうした上級者のノルマ達成の為の練習に備えねばなりませんが、防寒着を着て行なう練習と空調のある中でポロシャツ一枚での本戦では全く状況が違うので通用しなくなってしまいますから挙って空調を必要としますが、これが運営費を押し上げるのです。運営費が上がれば使用料は上がります。この差違は、ビルの集合空調下にある施設より孤立している施設の方が大きくなるもので、私設の比率が下がっていくのも無理ないのです。

射撃場と射的場では大きな違いがあります。射撃場はある一定のルールのもとで得点を出していく経過や結果の為に修練する場所、射的場は命中を以て賞典を得たり一定期間中の最高得点者に賞典を与えたりするところです。後者は博打みたいな一面を感じさせますが、習慣的に通い詰めることで自然に技量は上がっていきます。空気銃の規制が緩やかだった頃は後者のような営業形態の射撃場が結構あちこちにあったものです。そこでは貸し銃があり、気に入った銃を借りて撃てました。何も博打が大流行していた訳ではなく、その時代はスキーにテニス、ゴルフ、ヨット等、スポーツを楽しむことが生活と人格の向上に期するということで、全般的な運動ブームだったのです。ところが他に労せず遊興する宛先が増えて来てしまった所為で、それらに対する熱意は矮小します。それにつれ、暗い中に標的だけ照明されたような陰鬱なイメージのある射的は、極一部の熱中者を除いて飽きられていきました。そのうち射的=射撃=競技というイメージが固まっていったことで、空気銃の射撃場に通う人は限られて来ます。
クレー射撃も、設営原資が抑えられるスキート射撃やアメリカン射撃より、手返しよく回転の速いトラップ射撃が主流になるに連れ、多く持たれていた狩猟向け銃器の出番が減っていき、高価なトラップ射撃専用銃を求めうる人中心の利用者体系を構築していくことになります。
欧米でいうところの気軽な射的(プリンキング)は、家屋内や裏庭で、空気銃や低速小口径銃を使って楽しむものですが、日本では法制上不可能です。気軽だろうと意欲的だろうと同じ射撃場施設に出向かなければなりません。本格的な設備の射撃場は、雰囲気のみでなく利用者の大勢は重圧的な役割と意欲を以て射撃に向かっている人が必然的に多くなりますが、気軽に嗜んでいく気持を包容し切れない程ではありません。個々の目標と気分転換の手段として、相手や同行者が要らない射撃は都合を付け易くやり易い筈です。
平日の射撃場は空いていますので、平日に休みがある方はお得です。射撃場側も、満遍なく利用があって欲しいものでもあります。
それこそ、博打ではないので、損することはありません。腕が上がれば上がっただけ爽快感が増していきます。そして見知らぬとも、同好の人との交流も期待出来る射撃場は、設備の新旧に関わらず修練と機会を気楽に得ていく場所と思いますし、そうであってほしいと感じます。